【別格3番慈眼寺】
今回の遍路の中心は、慈眼寺の修行場「穴禅定」に入ることだった。寺に着くと、まず大師堂にお参り。そこから急な坂を10分近く上ると、小さな本堂がある。そこから少し上ったところに鍾乳洞があり、そこが穴禅定を呼ばれる。
入っていく長さは100メートルだが、道幅が極端の狭い。しかも鍾乳石の岩壁は垂直ではなく、でこぼこがある。このため、狭いところは幅が15センチほどしかない。顔などを幅広いところに合わせうるため、しゃがんだり、寝転んだり、万歳をしたりと、苦労をしながら抜けてゆく。先達の女性がいて、「右肩から入って」などと指示をし、それを伝号ゲームで後から来る人に伝えていく。右肩から入らなければいけない部分を、左肩から入ると、抜けられない。体の前側の壁に突起があって、腹ならへこませることができるのだが、突起が背中に当たれば背骨が邪魔をして、にっちもさっちもいかなくなるからだ。
十分な柔軟体操をし、柔道着のような修行着を身につけ、レインコートのズボンをはき、軍手をはめるなど、添乗員や私も含めて計14人が汚れてもよい万全のスタイルで、ロウソクを片手に洞に入って行った。ところが男性2人と女性1人が、難所を呼ばれている個所すべてで引っかかってしまった。そうすると、先達の女性が救援にやってきて、厳しい声で抜けられるように指導する。狭いので、手取り足取りができず、声だけなのだ。その間、後続のメンバーはずっと待っている。時には万歳をした格好や、腰を下げたような形など、不自然な体制で耐えて待つ。
スムーズにいけば、先達の堂内の説明を含めて所用時間は40分ほど。ところが私たちのグループは、1時間半以上かかってしまった。先達の閉口したような口ぶりで、「30人のグループを案内するより時間がかかった」と嘆いた。30人の場合は、15人ずつ2回に分けて案内するのだという。つまり、半数の人数でも30人以上の時間がかかったと言いたかったのだ。
引っかかった3人は、もがいてもがいて、やっと穴禅定から出ることができた時には、精魂尽き果てたように、座り込んで、なかなか起き上がることができなかった。1人の男性は「もう、出ることができないと思った」と、パニック状態の心情を語っていた。
大師堂の近くには、スイセン、ツバキが咲いていたが、私を含め、1時間半あまりの洞窟での時間に疲れてしまい、花どころではなかった。
↑ツバキと十三重塔。後は穴禅定がある岩山
【灌頂の滝】
慈眼寺から下りる途中の灌頂の滝に寄った。落差70メートル。水量が少なく、水は途中で霧散し、風向きによって霧となって落ちてくる。滝の左手の中腹に桜の木があり、満開に近かった。桜と滝のコンビにカメラを向けると、風に滝に水が舞い、レースを広げたような優美な形を見せた。
↑流れ落ちる水が風に舞い、レースのカーテンが翻ったような造形を見せた
【淵神の塔】
さらに下りると、現代造形の1つがある。国安高昌さんの「淵神の塔」。すぐ横の川は雄淵、雌淵と呼ばれるところで、それにちなんだ作品だろう。木を組み合わせて塔を造り、そこから水が流れているような曲線を木で造っている。ここもそばに桜がある。寒緋桜のような濃い花の色で、それが良いアクセントになっていた。
↑淵神の塔のそばの桜は満開に近かった
【昼食】
昼食は勝浦町の「ふれあいの里さかもと」。廃校になった小学校を活用した宿泊施設で、昼食も出している。地域おこしの事業で、地元の女性が田舎料理を作る。この日は、ばらずし、刺し身コンニャク、煮物(ワラビ、ダイコン、コンニャク、レンコン、ブロッコリー)、酢の物、みそ汁、ミカンゼリー。肉と魚のない料理だった。
↑地元の女性が作った料理
【森本家】
この時期、勝浦町は1カ月あまりにわたり、ひな祭りを繰り広げている。中心はビッグひな祭りを名づけた大型ひな壇。坂本地区では、各家庭が軒先に雛人形を飾っている。昼食のあと、雛人形を見るために散策した。目的地は旧家の森本家。ここには江戸末期や明治時代の雛人形が飾ってあるほか、雛人形や各種の人形を使い、源氏物語の1場面、偏庵時代の宮中の遊び、昭和時代の子どもの遊びなどの場面を、部屋やや庭を使って作りだしている。それを無料で公開している。この人家の人たちの熱意と手間に、感心することしきり。。
↑平安時代の宮中を遊びを雛人形で再現
【ビッグひな祭り】
広い倉庫を会場にしてある。27段8面のミラミッドのようなひな壇を作り、そこに雛人形を並べている会場に展示されている人形の数は約3万体だという。全国から今年も1万体が集まり、その中から展示するものを選んでいるという。圧倒されるスケールで、森本家のしっとりしたひな祭りと好対照だ。
↑3万体もの人形が展示されたビッグひな祭り
【20番鶴林寺】
鶴林寺は標高550メートルで、ミカン畑の中をバスで登っていった。境内には1000年を超す杉が存在感を示しているが、この時期に花は少なく、ジンチョウゲ、ボケ、ツバキが少々、花をつけていた。
↑ジンチョウゲと地蔵
【前松堂】
鶴林寺から勝浦町の中心部に下りてから徳島市に向かって帰る途中、和菓子屋「前松堂」に寄った。ひな祭りの時期、店の名物の豆ういろうと煎茶のサービスをしているからだ。ありがたくいただいた後、筋向かいの小さな公園へ。ここには河津桜が10数本植えてある。実は、参加者には内緒にしておいて、寄ってみようと思っていた公園だった。残念ながら河津桜は早咲きのため、ほとんどは葉桜になっていた。花が残っている枝を見つけてはカメラを向けたが、せいぜい10〜20の枝だった。
↑河津桜の公園はほとんど花が終わっていて、咲いている枝を捜してsh撮影
●●「ちょっと歩き花へんろ」の11回目は、2013年4月26日(金)〜27日(土)。花のテーマはバタンとフジ。札所は48番西林〜53円明寺。問い合わせ、申し込みは毎日新聞旅行へ(06−6346−8800)。