梶川伸・元毎日新聞論説委員」(「四国八十八ヶ所ヘンロ小屋プロジェクト」を支援する会副会長)
(毎日新聞に依頼され、2014年12月24日朝刊=大阪本社版=に掲載)
今年は四国八十八カ所霊場が開創から1200年とされ、来年は真言宗の総本山、和歌山県・高野山が開創1200年となる。「お遍路さん」は今年、「寺によっては2割増」(四国八十八ヶ所霊場会)といわれる。そんな状況を踏まえて休憩所は増え、お遍路さんをもてなすお接待も広がっている。
遍路道は歩くと約1200キロある。道沿いの人たちが足休めの場を設けているが、その中でも四国八十八ヶ所ヘンロ小屋プロジェクトは四国全域で「ヘンロ小屋」と呼ぶ休憩所造り進め、今年は4棟が完成、合計で53棟となった。
主宰者は徳島県海陽町出身の建築家、歌一洋さん(大阪府吹田市)。「小さいころから、お接待を見て来た。建築家として独り立ちをしたので、四国に恩返しをするために自分の特技を生かすことにした」と話す。2000年に活動を始め、小屋の模型の展覧会を四国各地で開き、協力を呼びかけた。
第1号は2001年12月、歌さんの出身地の海陽町にできた。今年に入って、50号・牟岐(徳島県牟岐町)▽51号・五色台子どもおもてなし処(松市)▽52号・日和佐海賊舟(徳島県美波町)▽53号・茶処みとよ高瀬(香川県三豊市)と加速している。
プロジェクトの特徴は、すべてボランティアであること。小屋は20平方メートル前後のものが多く、その土地を無償で提供してもらう。小屋は四国の木材を利用することが多く、地元の人たちが寄付集めなどをして建設資金をつくる。歌さんがその土地の特徴を取り入れたデザインで設計する。完成すると、地元の人たちが管理する。
歌さんと一緒に活動しているのが、「四国八十八ヶ所ヘンロ小屋プロジェクト」を支援する会(辰濃=たつの=和男会長)で、関西に住む遍路経験者が中心になっている。会費や寄付金は、小屋造りに支出する。建築費を節約するため、メンバーが手造りしたケースもある。四国に出向く機会は多いが、かかる費用は自己負担している。
森英雄事務局長(奈良県河合町)は歩き遍路を6巡経験している。初めて歩いた際、幼い子どもを連れたおばあちゃんに「この子がお接待をさせていただきたい、と言っているので、受け取っていただけませんか」と声をかけられ、差し出された10円玉を握りしめたという。その思い出が忘れられず、「四国では『ありがたい』ということを教えてもらったので、お礼がしたい」と、小屋造りの情熱を燃やす。
茶処みとよ高瀬は、外国に住む女性では初めて霊場会の公認先達となったソウル市の崔象喜さんと支援する会が共同で募金活動をし、日韓のほか英国も含め144人からの義援金155万で建設した。「日韓友情のヘンロ小屋」の愛称をつけている。小屋造りは国境を越えた広がりを見せている。
小屋は、地元の人のお接待の場ともなっている。2008年にできた28号・松本大師堂(高知県香美市)では、空海の“月命日”にあたる21日に、約20人が集まる。その1人、依光(よりみつ)栄さんは「今年になって、お接待はグレードアップした。炊き込みご飯や赤飯、おかずや手作り菓子を持ち寄って、お遍路さんに食べてもらう」と語り、「まるでカフェかランチの店のよう」と表現する。
歩くルートには、古くからの遍路道も残っている。2000年には21番太龍寺(徳島県阿南市)周辺の遍路道が史跡に指定された。昨年は82番根香(ねごろ)寺(高松市)、今年は71番弥谷(いやだに)寺の近くの道が史跡となった。休憩所、お接待、遍路道と、お遍路さんにとっては、ありがたい環境が整っていく。
◆「四国八十八ヶ所ヘンロ小屋プロジェクト」を支援する会
会員は約300人。事務所は〒541−0059大阪市中央区博労町1の7の11の歌建築研究所(電話06・6264・2150)に置いている。四国4県に支部長がいる。年会費は1口3000円。ホームページはhttp://www.geocities.jp/henrogoya/